11月, 2011 のアーカイブ

論文の構成・転載

Posted: 2011年11月6日 カテゴリー: 博士随想

論文の構成(目的・対象・方法・結果・考察・結語)

http://homepage3.nifty.com/hiraizumi/starthp/subpage08.html

歴史学入門・転載

Posted: 2011年11月6日 カテゴリー: 博士随想

歴史学と歴史研究についてのQ&A

名城大学人間学部 伊藤俊一


歴史学って何?

人間社会について、時間による変化の視点からアプローチする学問と言えましょうか。


歴史の研究をするには記憶力が良くないとだめ?

私がこのページを作ったきっかけが、実際に受けたこの質問です。大学入試では記憶力も試しておきたいということで、残念ながら歴史の試験は格好の暗記力検査になっています。しかし歴史の研究が受験勉強の延長のようなことをするというのは大きな誤解です。史料から事実を導いてゆくのが歴史研究であって、むしろ探偵やジャーナリストの作業に近く、コンピュータが普及した今では、ほとんど暗記能力は必要ありません。


歴史学は人間社会の進化の法則を見出すことを目的とする?

これは私は違うと思います。革命は中間層の分解から生じるなどの歴史の展開のパターンについては色々と言うことはできますが、それらは歴史学の結果であって目的ではないと思います(この辺は歴史学者の中でも違う見解があるでしょうが)。

歴史学の本務は、過去に何があったのかを先入見に曇らされずに明らかにするという、「事実」の追及にあると思います。ただ、「1378年に足利義満が花の御所に移った」というのも事実なら、「室町時代の社会」というのも事実です。歴史学にとって前者のような事実を確定する事を「実証」と言い、最も基本的な作業ですが、これらを総合して、後者のような全体的な事実を捉えることも大事な仕事です。

その際に研究者は、自分が現代人として持っている様々な先入見(その社会で一般になっている歴史観など)と格闘しなければなりません。またこの闘いの最大の武器となるが実証でもあるのです。

ただ歴史学が事実を追求する学問だからと言って、社会科学などの理論的仕事に無関心であって良いということではありません。歴史学は他の諸科学に理論の種子を提供し、また理論に啓発されて新しい領域を開拓してきました。


学者の主観によって左右されるため、歴史学は科学ではない?

これは大いに反論したいところです。歴史学は物理法則のような普遍的法則を定立しようとする学問ではないことは確かですが、かといって個々の学者の主観に左右されるものではありません

歴史学の研究論文で何かを主張しようとする場合、著者は必ず根拠となる史料とその解釈を示さなければなりません。論文を読む人は直接に史料にあたって著者の主張が成り立つかを判断し、多くの検討をくぐりぬけた論文だけが生き残ります。歴史学では、科学の基本である追試可能性が成立するのです。

逆に、これが成り立たない論文は研究論文とは認められません。例えば自分で発見した新史料を使って論文を書いても、他の研究者がその史料にアクセスできないままだと、内容の妥当性が判断できないので、学術的評価の対象にはなりません(歴史畑でない人が歴史的研究を発表する場合、この辺を誤りがちです)。そのため、史料の紹介や公刊というのも大切な仕事になります。


http://toshiito.cside.ne.jp/hist_Q_A.htm

歴史学が科学ならば、自然科学のように進歩する?

これは半分は違います。史料から事実に迫る技術については年々進歩していることは確かです。しかし歴史学は過去のすべての事実を逐一復元することを目的とする学問ではなく、「追求するに値する事実」を選んで研究の対象とします。ある論文の価値を認めるのは同時代の研究者集団であり、史料から正しく事実を導いているかをチェックすることは不変ですが、どんな事実の追求を「意味のあるもの」と判断するかは時代によって変わってくるのです。

それは意識的であれ無意識的であれ、研究者集団が同時代人として、どんな課題に直面しているかというところに影響されます。つまり社会が変わりつづける限り、歴史学も進歩と同時に変化を続けるのです。


何百年も前の事をどうして研究する必要があるのですか?

私の好きな言葉に「時は流れない。それは積み重なる」(サントリーのコマーシャルでショーン・コネリーが言っていたが、出典は不明)というのがあります。ウイスキーでも人間でもそうですが、社会についても、はるかに過去の出来事が現在をしばりつづけていることが多くあります。また今では持っている事を忘れてしまった宝物もあるでしょう。

過去から自由になるためにも、また過去の中から未来への糧を見つけるためにも、社会が変化して行くにしたがって、これまでの道のりの各々の時期を見つめ直す必要があります


歴史研究の魅力は何なのでしょうか

これは私の個人的感想になりますが、色々な史料を集めて読み込んで行き、その時に本当は何が起きていたのかを追及して行く過程は、なかなかゾクゾクするものがあります(こうして明らかにした個々の事実から、大きな「歴史の流れ」を抽出して論文にまとめて行くのは身を削るようにつらいのですが)。

学者が書いた本を読むのも良いですが、推理小説を読むより、自分が探偵になった方がおもしろいと思いますので、史料を読む事をぜひお勧めします

それには古文書学などの方法論を身につける必要がありますが、そんなに難しいものではありません。難しいのはむしろ、どこにどんな史料があって、それを見るにはどういう手段を使うか(個人的コネや「業界内での信用」も含む)というような事で、プロの研究者はこのノウハウで食ってきたようなものですが、今後インターネットへの史料の公開が進むと、歴史研究への敷居もどんどん低くなってゆくと思います

つづく