主旨 古来、我が国では自然を大切にし、自然と共生する生
活が継承されてきた。衣服、食物、住まいのすべてにおいて
私達は自然の力の偉大さを認識し、自然を崇め、感謝しつつ、
自然物や自然現象を巧みにコントロールし、デザインして文
化にまで高めてきた。例えば、農業のような人間の最も基本
的な営みに、人間と自然との美しくかつ総括的な関係を見る
ことができる。
しかし近代以降、人口の急激な都市集中に伴って、大量の
建築が生産され、自然は破壊され続け、人々は自然との調和
のとれた関係を失ってしまった。人々は高層化された建築の
なかで、極度にコントロールされた人工環境での均質な生活
を余儀なくされている。人々は終日モニターやモバイルフォ
ンと向かい合い、自らの表情まで均質化しつつある。
また、都市の過密化がもたらした地球規模での環境汚染に
いかに対処するのかが、21世紀の重要なテーマとなった。
CO2削減や、エコロジカルな、あるいはサステイナブルな環
境を求めるアピールが日々新聞やTVで大きく報道されてい
る。
だがいまのところこの問題に応える提案のほとんどは、技
術的なものに限られている。屋上緑化や壁面緑化の試みも進
化しつつあるし、ソーラーバッテリーの性能の向上も著しい。
しかしこのような技術をいかに現在の建築に採用しても、単
体としての建築の性能アップに止まっている。
いま私達に求められるのは、もう一度自然を感じ、自然に
呼応する建築のあり方を根底から再考することである。かつ
てのように身体全体で自然を受けとめ、自然と接し、自然と
の関係をつくり上げることの可能な建築を発見することであ
る。
しかしこれは、決してかつての生活への逆戻りを意味する
ものではない。現在の人口密度を保ちつつ、現在の経済活動
を維持しつつ、すなわち現実の社会を前提にしたうえで、自
然との関係を再構成しうる建築の提案を求めることである。
大きな自然とは決して大自然のことではない。いかに人口
の密集した大都市の個々の生活からの提案であったとしても、
それが地球全体にまで拡張可能な普遍性を持ち得るならば、
その提案は「大きな自然に呼応する」と言えるのではないだ
ろうか。
審査委員長 伊東豊雄